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回顧録(かいころく) >  共依存 > 

最終話 おかえり。共依存。ただいま。共依存。


 家族の話を一通り金井さんに話し終わった。

 「血の繋がった家族なんだから、連絡を取るべきです」金井さんは僕に言った。「17年も前の話ですよ。いまさら」僕は返事を濁した。そう、家族と連絡をとる用の携帯電話の電源をOFFにしてから17年も経っていた。
 その間に、僕はアルコール依存症になってしまい、仕事もクビになり、生活保護を受けて暮らしていた。S病院に入院しているのもアルコールの解毒の為だった。
 いまさら連絡を取っても、今の僕に何が出来るであろう。少ない生活保護費で暮らしている僕にとって、いまさら妹の前に出て行って何が出来るかと自問自答していた。お金が無いのである。あの頃の様に「今から死にます」なんて連絡が来ても、駆け付ける交通費も無い。いまさらなのだ。いまさらなのだ。いまさら妹の前に出て行っても何も出来ない。
 「それ、逃げてるだけですよ。お金が無いから家族を愛せないなんて言い訳です。」金井さんに怒られた。

 実は、3年前、運転免許の更新で運転免許センターに行ったとき、僕に捜索願が出されていることを知った。捜索願を出した主は妹だった。僕は警察官に事情を説明して、妹夫婦の娘が成人するまで待ってほしい(見つからなかったことにして欲しい)と頼み、その願いは受け入れられた。その当時、妹夫婦の娘は高校生ぐらいだと思ったので、僕が出て行って、また“離婚”の調停役になるのを避けたかったのである。5年後の運転免許更新の時に、再度“会うか”or“会いたくないと伝えるか”を選ぶように言われた。

 金井さんの看護実習の期間が終わった。別れの時に「必ず妹さんに連絡をとってください。」と念押しされた。
 数日後、僕のアルコールの解毒も終わり、僕もS病院を退院した。

 「必ず妹さんに連絡をとってください。」金井さんの言葉が耳から離れなかった。僕は17年前、確かに妹を愛していた。愛していたからこそ妹の前から姿を消したのだ。
 どうせ2年後の運転免許の更新の時には、捜索願に結果を出さなくてはならない。なぜかその時、“それはそれで、その時考えればいいや”とは思わなかった。“今決着を付けなければならない”そんな脅迫心が僕を襲った。“いま決着を付けなければならない”なぜだろう。僕は妹に会いたかったのだと思う。だから“今決めなくてはならい”と強く思ったのだ。

 僕はまずプリペイド携帯電話を買った。妹との連絡専用とする為だ。前の経験でわかっていたのだ。連絡先は別にして住所は教えない。それが一番良い選択だと思った。
 僕は、覚悟を決めて家の近くの警察署に駆け込んだ。事情を説明して妹に連絡をとってもらった。“妹には住所は教えないで欲しい。電話番号だけ連絡してください”そうお願いした。その場では連絡が付かず、後日、電話番号だけ妹に連絡してもらうことになり、その日は帰った。
 次の日も、その次の日もプリペイド携帯は鳴らなかった。
 5日後の日曜日、家のピンポンが鳴った。ドアを開けると、右手にカミソリを持ち、左手首から血を流した妹が立っていた。

 “なんかとても楽しい。なんかとても嬉しい。”なにかの曲の歌詞が僕の頭の中を回っていた。

-終-



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