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第1話 僕がアルコール依存症になった瞬間


 僕は自分が“アルコール依存症”に成った瞬間を鮮明に覚えている。アルコール依存症の人は多いが、成った瞬間を覚えている人は少ないだろう。ちなみに瞬間と言っても日時を覚えていると言う意味では無く、あの瞬間と言う瞬間があったと言うことである。

 今から10年ほど前のことである。僕は埼玉県のとある市にあるNONOと言うアミューズメント施設でアルバイトをしていた。二階建ての建物で、1階がリサイクルショップ、2階はゲームセンターだった。リサイクルショップと言っても皆さんが思い浮かべるだろう中古家具屋とは違い、テレビゲームやトレーディングカード、DVDなどアミューズメント系の中古を主な生業としていた。

 僕は、NONOの専務から気に入られていた。僕は“地下アイドル”のファンだった。地下アイドルとはテレビに出られるほど有名では無いけど地道にライブ活動などを行っているアイドルのことである。NONOの専務に地下アイドルのDVDを見せた時、NONOの専務は興味をひかれた。「これだよ西ちゃん」NONOの専務は、NONOを“地下アイドルの聖地”にしようと僕に持ち掛けた。NONOがある市は埼玉県だが、秋葉原から電車で30分くらいの場所だったから、地下アイドルの聖地として展開するには無理の無い立地だった。NONOの専務は僕に店の1コーナーを任せ“西ちゃんコーナー”と名付けた。地下アイドルのCDやDVDを仕入れてくれて、ちょっとしたミニ秋葉スペースを作らせてくれた。

 NONOでの仕事は楽しかった。自分の好きなことをやれるのだから楽しいに決まっている。給料は安かったが、僕は生活保護を受けていたので問題は無かった。店の他のアルバイト連中とも仲良くなり、週に1回は閉店後に鍋パティーをする。そんな毎日が続いていた。

 NONOに2年ほど勤めた頃のことである。NONOの専務の友人である浅井さんが、NONOに潮岸を連れてきた。潮岸はヤクザだった。先日刑務所から出所したばかりで仕事が無いという。普通、ヤクザが組の為に服役した場合、出所後の面倒は組がみるらしいのだが、潮岸が服役した理由はプライベートだった為、出所しても働き口が無いとのことで、NONOにアルバイトとして雇って欲しいという相談だった。NONOの専務はそれを断った。でも、潮岸は、なぜか毎日NONOに来て居座った。

 潮岸がNONOの専務を洗脳するのにそんなに時間は掛からなかった。“真面目に働くより犯罪をした方が儲かる”と言う潮岸の常識をNONOの専務に擦り込んだ。

 NONOの専務と潮岸が最初にやった犯罪は保険金詐欺だった。“ムーさん”と言うNONOの専務の友達の家に300万円分のトレーディングカードを置き、天井裏の下水管の繋目のボルトを緩め、トレーディングカードを水濡れ状態にして、家財保険会社に弁償させると言う手口だった。トレーディングカードとは微妙な物で、メーカー側の計算ミスにより、最強のカードがたまに生まれるらしい。当然メーカーはその計算ミスに気付き販売を中止するので、既に流通してしまったカードは“幻のカード”として高値で取引される。僕はNONOの専務に150万円のカードを見せてもらったことがあったが、実はそれは店に遊びに来る子供たちから数百円で買い取った物らしく、目利きの専務は、価値が上昇するまで金庫の中で眠らせていたらしい。他にも50万円とかするカードを何十枚も保有していた。ただ問題は、埼玉県の小さな市の店舗で、それを150万円とか50万円とか言って販売していても売れないらしい。なので、わざと水濡れ汚損状態にして家財保険会社に弁償させたのだ。ムーさんの家はアパートの一階だった。屋根裏を通る下水管に細工するなど、潮岸にとっては朝飯前のことだった様だ。当然ムーさんとNONOの専務と潮岸で100万円ずつ分けたらしい。ここで、ムーさんの家は大丈夫なのかと疑問が発生するが、これが大丈夫なのである。必要な物は事前にNONOの専務に預けておいて事を行った。部屋中下水まみれ、テレビもベットも全部だめになる。臭くて生活も出来ない。もちろんそんなマヌケな結果をムーさんが了承するわけが無い。でも大丈夫なのである。家財保険会社が全部弁償してくれるのだ。汚れた壁紙も貼り変えてくれるし、家具や電化製品も全部新品に買い替えてくれたらしい。そして、その弁償作業中はビジネスホテルに泊まれる様に全部家財保険会社が手配してくれたらしい。ムーさんにとってもイイことずくめの結果に成ったらしいのだ。
 なぜこの件について僕がこんなに詳しいかと言うと、後に、僕の家が同じ犯罪のターゲットと成り、それを行う前に“成功事例” としてムーさんの事例を聞いたのだ。

 NONOの専務と潮岸が二回目にやった犯罪も同じ手口だった。ターゲットはムーさんの彼女だった。同じ様に家がアパートの一階だったのだ。家財保険会社がムーさんの家とは違うことだけを確認して、すぐに実行したらしい。今度は400万円分のトレーディングカードを用意して、一人100万円ずつの分け前だったらしい。

 ある日、NONOの専務と潮岸が僕の家にやって来た。僕の家もアパートの一階だったので、三回目のターゲットに選ばれたのだった。潮岸は僕の家を物色した。しかし、僕の家は比較的新しい建造物だったので、俗に言う“屋根裏”に入る手段が無かったのだ。潮岸は無理やりでも決行すると僕に言った。実行する方法を考えて出直すらしい。僕は「犯罪に手を貸す気は無い」とはっきりと断った。NONOの専務と潮岸は黙って帰っていった。
 次の日、僕は普通にNONOに出勤した。驚いて言葉が出なかった。“西ちゃんコーナー”がグチャグチャにされていたのだ。棚は倒され、床に落ちた商品は見るも無残に踏み壊されていた。“潮岸の仕業だ”僕はすぐに思った。でもその後に凄いショックな事に気付いた。NONOにはALSOKのセキュリティーがあったのだ。閉店後はセンサーが働き、誰かが入ったらALSOKの警備員が急行するハズだった。つまり、誰かがALSOKのセキュリティーをOFFにしないと潮岸はNONOに入れないのだ。僕は専務が共犯であると悟った。そして泣いた。泣きながら家に帰った。もうバイトどころの騒ぎでは無い。一番信用していた人に裏切られたのだ。僕は帰り道のスーパーマーケットで酒を買った。350ミリリットルの発泡酒6缶セットを買った。そこには“酒を飲みたい”などと言う意識は無かった。酒を飲んですべてを忘れたかった。その日、生まれて初めて“昼間から” 酒を飲んだ。

 職場、友人、仲間、居場所。そのすべてが一夜の内に無くなったのだ。僕は、その日から毎日、昼夜を問わず酒を飲んだ。“すべてを忘れたかった”ただそれだけである。



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