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第3話 生活保護とアルコール依存症
Y病院は精神病院だった。隔離病院で入院患者は外に出れない。その代わり、家族以外の面会は全てシャットアウトしていたので、僕は安心して入院生活を送ることが出来た。潮岸が面会に来ることもない平穏な毎日が続いた。
Y病院の入院生活は楽しかった。バカな仲間とワイワイやっている様な感じで、あっという間に時間が過ぎた。
「そろそろ退院しましょうか」ドクターに言われたのは入院して半年くらいの頃だった。僕は計画を立てていた。退院したら東京の“山谷地区”に住む計画だった。山谷地区は安いビジネスホテルが乱立している地域で、一日2200円で泊まれることを知っていたのだ。半年間の入院生活で生活保護費が10万円以上銀行口座に貯まっていた。そのお金で山谷地区に住み、そこでアルバイトを見つけて食つなぐ計画だった。Y病院の相談員(ケースワーカー)にもそのことを伝えており、退院は順調に決まった。
退院時に僕は埼玉県での生活保護を辞退した。家には帰れないので、当然のことであるが決死の覚悟だった。“せっかく拾ってもらった命、絶やしてなるものか”と言う気持ちもあったが、どちらかと言うと“潮岸が居る埼玉県には居たくない”と言う気持ちの方が強かった。
退院後、僕は山谷地区の“ビジネスホテル幸福”と言うビジネスホテルに住んだ。一ヶ月分の宿泊費を前払いすれば、そこに住所が置けるのだ。しかも住民票上の住所には“ビジネスホテル”とは書かれない“幸福荘”と言うアパートの様な名前で記載された。アルバイトはすぐに決まった。なんと月給47万円の契約社員の仕事だった。履歴書に書いた経歴がものを言ったのだと思う。確かに、僕は“富士通本社での携帯電話開発”の経験があったのだ。面接もすんなり通った。だって、全て本当の経歴なのだから無理はない。
でも僕は、自分の持病のことを忘れていた。僕には“視線恐怖症”と言う持病があった。これは黙ってデスクワークをしていると周りの人の視線が気に成って、カチンコチンに固まってしまい仕事が出来ないという病気だった。NONOでの楽しいアルバイト生活や、Y病院での楽しい入院生活の記憶ばかり強くて、持病のことをすっかり忘れていたのだ。実は、僕が発病したのは36歳の頃で、“富士通本社での携帯電話開発”の経験はその前の話だった。38歳の時にリーマンショックでリストラされたのだが、それまでの2年間はそんなに重い症状では無かったので大丈夫だと思っていたが、デスクワークから離れて4年経った今では、自分でも気付かない内に病状が悪化していたのだ。
久しぶりにオフィスのデスクに座った僕はカチンコチンに固まっていた。誰とも話さない状況で隣や向いに人が居る状況が耐えられなかった。僕は就任1日目で職場を放棄して逃げ出した。無理だと気付いた。無理だった。
次の日、僕は区役所の生活福祉課を訪ねていた。負けを認めて山谷地区を管轄する区役所に助けを求めたのだ。そう、一度生活保護を経験した者は、すぐに生活保護に立ち返るのだ。埼玉県で生活保護を受けていたのだから東京都でも受けられる。そんなあまい気持ちで助けを求めたのである。でも結果はそんな甘いものでは無かった。「一度ホームレスになってください。話はそれからです。」そう区役所の人に言われた。“一度ホームレスに成る”なぜだ?僕は、すぐに通っているクリニックの先生に会いに行った。埼玉県で生活保護を受ける時に先生は助けてくれたからだ。だからまた頼ろうと思った。先生に会いに行って正解だった。先生はすぐに区役所の生活福祉課に電話をして「一度ホームレスに成れとはどう言うことだ!」と怒鳴って、ホームレスに成らなくても生活保護を受けられる様に取り繕ってくれた。
ただ、その日から、僕の酒浸りの生活が復活してしまった。“生活保護を受けて保護費で酒を飲む” そんな毎日が再度始まってしまったのだ。
酒を飲んでいる時は“一生!生活保護でいいや!”と思ってしまうのだ。
特に山谷地区は特殊だった。基本的に住まいはビジネスホテルだから“水道光熱費”が掛からないのだ。冬も夏もエアコンを全開にして使っても何も言われない。普通の生活保護受給者は、生活保護費の中から水道光熱費を払い、残ったお金を生活費に充てる。でも山谷地区は違うのだ。生活保護費が丸々お小遣いに成ってしまう。お店で飲むほどの余裕は無かった。でもホテルの近くに安いスーパーマーケットがあった。そこでお酒が安く買えるのだ。気が付いたら、朝から晩まで一日中酒を飲んでいた。でも、それでも生活費が足りなく成らないのだ。最初は気付かなかったが、ホテルの他の住民もみんなアル中ばかりだった。“生活保護費で酒を飲む”そんな日常が、普通に当たり前かの様にそこにはあった。
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