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第9話 友人の裏切りと再飲酒


 H病院は約3ヶ月で退院できた。僕は“アルコール依存症の知識の塊”となって日常生活に戻って来た。
 退院の翌日、友人が退院祝いの飲み会を開いてくれた。僕は酒を飲んだ。誘惑に負けたからでは無い。H病院で教わった知識が生きていた。“連続飲酒発作”に陥らなければ良いのだ。連続飲酒発作とは、一度酒を飲んでしまうと止まらなくなり毎日飲み続ける状態のことであり、この“連続飲酒発作”に陥らなければ“たまに飲むくらいは良い”とも教わっていた。むしろH病院の講師の先生は“生涯完全断酒なんて無理な目標を掲げるのはやめろ苦しいだけだ”とも言っていた。知識の塊である僕は“連続飲酒発作”に成らない様に考えながら飲んだ。H病院で教わった“脳の報酬系の原理”などを考えながら酒を飲んだ。脳で分かっていることは理解が出来た。僕は“連続飲酒発作”に陥らなかった。その日酒を飲んだだけで、次の日は飲まなかった、また次の日も酒を飲まなかった。脳が“アル中に成ってはいけない”と理解していた。H病院退院後4ヶ月間、僕は友人に誘われた時以外は酒を飲まなかった。H病院の治療方針がある程度実を結んでいた。

 でも、H病院ではこうも教わっていた「アルコールを求める脳は野生の脳であり、理性をつかさどる脳は野生の脳には勝てない」つまり、知識で野生を打ち負かすことは不可能だと言うことだ。矛盾しているそうも思った。だからこそ“わかるまで何度でも教える”と言うことになるのだと思う。一回や二回の入院では無理だと言うことなのだろう。“わかるまで何度でも教える”この繰り返しのプロセスによって、人間の脳は“理性が野生に勝つ時が来る”そう言いたかったのかも知れない。確認だが、これはH病院の教えでは無い。H病院の教えを元に、僕が勝手に解釈したことである。

 H病院退院から5ヶ月目のことである。とある事で友人に裏切られた。内容は“アルコール依存症”に関係の無いことなので、ここには書かない。ただショックなくらいに華麗に裏切られた。“心が弱っている時は、理性の脳は、野生の脳に勝てない”H病院で教わった通りになった。友人からの裏切りに対し怒りに燃えた僕の心には理性など無かった。一晩中酒を飲んだことを覚えている。

 H病院退院後、僕はSクリニックに通院していた。実はH病院に入院中に外出届を出して、Sクリニックに“退院後の相談”に来ていたのだ(正確にはH病院側から退院後の相談をSクリニックにする様に言われていた)。僕の要求は“Sクリニックには通いたくない”と言う内容だった。主に“抗酒剤治療の拒否”だった。Sクリニックのプログラムは視線恐怖症の僕にとって苦痛でしかないことを青島さんに伝えた。青島さんはなぜかすべてを容認してくれた。後で思えばこの容認こそが青島さんが用意したトラップだったのだ。通院の拒否については、治療目的のプログラムにさえ出れば、それ以外のプログラム(レクリエーションなど)には出なくて良い。抗酒剤についても飲まなくても良い。H病院の治療方針で良いとのことだった。青島さんと話をした後、診察室に通され、青島さんがドクターにさっき話した内容を伝えた。ここからが青島さんのトラップの始まりだった!ドクターの前で青島さんが突然言い出したのだ「もしも再飲酒したら、抗酒剤治療を受けてもらいます。いいですか?」不意打ちだった。卑怯だとも思った。さっきの打ち合わせではそんなこと言っていなかった。僕は仕方がないく「わかりました」と答えた。青島さんが用意したトラップに見事にハマってしまった。そりゃそうだ。診療方針が全く違う病院から戻って来る奴を受け止めるにはウソのひとつくらいつかないと無理だろう。見事なトラップだった。

 友人に裏切られて、朝まで酒を飲んだ次の日、僕はSクリニックに行かなかった。青島さんが迎えに来た。荒れたのは一晩だけだったので、そんなに大事でも無いと思った僕は、青島さんに連れられて車でSクリニックに行った。ドクターの診察で“友人に裏切られたこと”そして“発泡酒を3本飲んだ”と言った。“発泡酒を3本飲んだ”はその場で思い付いた言い訳である。どう考えても酔っていることを隠し切れないと思った僕は“発泡酒を3本飲んだ”と酒を飲んだことを認めたのだ。ただ“発泡酒を3本飲んだ”はウソだった。正確には10本以上飲んでいた。ドクターは「正直に言ってくれたからいいだよ。これからも断酒を続けなさい」とやさしく受け止めてくれた。ところが、横から青島さんがドクターに告げ口をした。「再飲酒したら抗酒剤治療を受けると約束しています。見逃してはいけません!」えっ?ここで言う!?そうなのだ。そうなのだ。これは罠だった。青島さんの罠だった。青島さんは5ヶ月も掛けて、僕に抗酒剤治療を受けさせるトラップを展開していいたのだ。青島さんはこの日を待っていたのだ!「君は僕とそんな約束をしているのかね?」ドクターが僕に問うた。「はい約束しています」僕の返事に「だったら抗酒剤治療を受けるね?」ドクターが攻寄った。さっき「正直に言ってくれたからいいんだよ」と言ってくれた優しいドクターは、もうそこには居なかった。青島さんの思うつぼだった。「抗酒剤は飲みたくありません」そう言う僕に「だったら君を診ない。前に通っていたクリニックに戻りたまえ!」ドクターは見捨てるような顔で僕に言った。「先生、見捨てないでください。先生に見捨てられると眠剤が貰えないんです」睡眠薬の処方の心配だけをしている矛盾した僕もそこに居た。ドクターはスぅっと立ち上がると、どこかに行ってしまった。まさしく“見捨てる”ジェスチャーだった。「本気で眠剤も処方しないつもりですか?」青島さんに問うた。「診ないんだから処方も無いんじゃない」あっさりと言われた。



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